外国人のための医療支援システム研究会では,言語グリッドの持つ言語資源を利用して,実際の医療現場における外国人患者の支援を行っています.

日 本語で流暢なコミュニケーションのできない外国人が病気になった場合,医師に症状を的確に伝えられないために,適切な医療を受けることができません.ま た,医療分野では些細なミスが生命に影響を及ぼすため,外国人患者とのコミュニケーションでは精度の高い翻訳が必要になります.
現在は,医療通訳ボランティアが診察に同行し,外国人患者の支援を行っています.しかし,24時間対応や緊急時対応ができないなど,様々な問題を抱えています.

そこで本研究会では,言語グリッドを用いて実際の医療現場における外国人患者の支援を行っています.
医療現場において,多言語医療受付支援システムM3と医療用例対訳収集システムを利用することで,精度の高い多言語コミュニケーションを実現しています.

以下で,支援を行っているシステムについて詳しく説明していきます.

多言語用例対訳共有システムTackPad

TackPadは,医療分野における専門的かつ多言語の用例対訳を収集・共有するためのシステムです.
TackPadの主な機能として,用例の提案,対訳の作成,用例対訳の検索の3つがあります.

(1) 用例の提案
医療従事者や患者などが,他の言語に翻訳してほしい用例を提案する機能です.それぞれの立場から見て,必要と感じている用例をシステムに提案することができるので,本当に必要とされている用例対訳を集めることが可能となっています.
(2) 対訳の作成(翻訳を行う)
提案された用例を翻訳する機能です.翻訳支援機能として,翻訳元の言語と翻訳先の言語を指定すると,翻訳可能な用例をソートして表示する機能を用意しています.
(3) 用例対訳の検索
収集された用例対訳を検索する機能です.用例の検索のみではなく,用例を登録した人のコメントや,付けられたタグでの検索も可能となっています.
TackPadのシステム構成

図1 TackPadのシステム構成


このように利用者ごとに役割分担をすることにより,各自が可能な範囲で貢献し,高精度な用例対訳を収集・共有することを目指しています.

多言語用例対訳共有システムTackPad

多言語医療受付支援システムM3(エムキューブ)

3(エムキューブ)は,病院の受付において,来院した外国人患者の受診手続きやコミュニケーションを支援するためのシステムです.このシステムは,言語グリッドの用例対訳サービス,応答用例サービスを用いて高精度なコミュニケーションを実現しています.

M3の言語グリッド利用構成を表わした図

図2 M3の言語グリッド利用構成

患者自身が操作を行う機能として,病院内の道案内機能,Q&A機能,受診手続きの支援機能を備えており,病院内に関するサポートを受けることができます.

3の詳細については,以下のページで紹介しています.
クリックすると医療受付対話支援システムM3のページに飛びます 医療受付対話支援システムM3って?

京都市立病院におけるM3の利用シーン

現在,M3は京都市立病院の再診受付に設置されています.

京都市立病院でM3を利用している様子
図3 京都市立病院におけるM3利用の様子

医療従事者主導のコミュニケーション

医療従事者主導のコミュニケーションの流れを表わした図
図4 医療従事者主導のコミュニケーションの流れ

現在,外国人患者が来院した際,病院側ではジェスチャでの対応や,英語を話せる医師による対応など,何らかの形で対応を行っています.しかし,24時間対応や,緊急時対応を行うことは難しい状態です.患者が安心して医療を受けられる環境を整える必要があり,間違いのない情報伝達をする必要があります.
3を使うと,医療従事者,患者がそれぞれの母国語を用いて,正確なコミュニケーションができるようになります.適切な診察を患者が受けられるように,医療従事者がコミュニケーションを主導し,患者への質問や簡単な問診をすることができます.

患者主体の機能を説明した図
図5 患者主体の機能

患者主体の情報取得

病院には,多くの患者が来院します.大規模な病院になると,その数は膨大になり,1人の患者に長時間対応することは難しくなります.
病院内で定型化されている支援については,M3がサポートしており,患者が主体となって操作を行うことができます.現在,M3は病院内の道案内機能,Q&A機能,受診手続きの支援機能を備えています.
目的地までの経路がわからない場合は,道案内機能を使って現在地からの経路を調べることができます.
また,会計科目の内容が知りたいなど,病院内での疑問についてはQ&A機能を使うことで解決の支援をしています.
受診手続きの流れがわからない場合は,受診手続きの支援機能を使うことで,必要な手続きを調べることができます.

多言語医療受付支援システム
3のリーフレット
(pdf:160KB)




コメント

特活)多文化共生センターきょうと 外国人医療支援システム開発 プロジェクトマネージャー:前田 華奈
前田 華奈さん

当センターでは2003年より医療通訳を病院へ派遣する事業を行っており,年間1000件を越える依頼を受けています.しかし,この事業は病院からの依頼を受けて派遣調整を行い,通訳者を派遣するというシステムのため,初診や救急,24時間対応は難しいという問題がありました.このシステムによって,通訳者がいなくとも,外国人の方にとって一番大きな最初の壁であった病院の受付手続きや問診などができるようになり,安心して病院を訪れることができるようになったと思います.

特活)多文化共生センターきょうと 理事長:重野 亜久里
重野 亜久里さん

経済のグローバル化に今や200万人以上の外国人住民が日本で暮らしています. 昨年,三重県で外国人の妊婦が言葉が通じないという理由で7つの病院で受け入れを拒否されたという事件がありましたが,医療現場における言葉の壁は,命に関わる重要な問題になっています. 私たちのセンターではこの「壁」をなくそうと医療機関へ通訳を派遣する事業に取り組んでいますが,まだ一部の地域の支援でしかありません. 国際化し,多文化しつつある日本社会において,まだまだ言葉のサポートは進んでいないのが現状です. このシステムは通訳者が不在でも,初診受付や問診などの場面において外国人患者も日本人と同様に手続きをすることができます.システムによって,受診の敷居を下げ,外国人が気軽に受診できるようになりました. 今後このシステムが普及していけば,外国人医療の流れを大きく変えられるのではないかと期待しております.

医療通訳者(英語):政宗 敦子
医療通訳コーディネイター 看護師:高嶋 愛里
政宗 敦子さん

日本語のできない外国人の患者さんから「このM3に出会ってからは言葉の違いというハンディーを意識しないで安心して医療が受けられるようになった」そういう感想が近い将来聞けそうです.とにかく問診内容が充実しているので,患者さんは症状を医師や看護師に正確に伝えることができます.病院内での「多文化共生」素敵だと思いませんか?

高嶋 愛里さん

日本語が通じないと患者様も医療者も両者が不安を抱えてしまいます. また,いつくるか分からない日本語の通じない患者様の対応を,通訳者さんにお願いするのには物理的な限界があります. その中で病院での最初の入り口である受付をこのシステムでカバーすることによって,日本語の通じない患者様の早期受診と継続した受診行動につながっていくのではないかと期待しています.

SIG (Special Interest Group)

第1種SIG

メンバ

主査 重野 亜久里
 (多文化共生センターきょうと)
副査 吉野 孝
 (和歌山大学システム工学部デザイン情報学科 吉野研究室)
幹事 宮部 真衣
 (東京大学 知の構造化センター)
会員 石田 亨
 (京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 石田・松原研究室)
北村 泰彦
 (関西学院大学理工学部情報科学科 北村研究室)
重信 智宏
 ((独)情報通信研究機構 言語グリッドプロジェクト)
前田 華奈
 (NPO 多文化共生センター・きょうと)
村上 陽平
 ((独)情報通信研究機構)
福島 拓
 (和歌山大学システム工学部デザイン情報学科 吉野研究室)
協力会員 小原 永 (アドバイザ)
 (NTTアドバンステクノロジ株式会社)
小見 佳恵 (アドバイザ)
 (NTTアドバンステクノロジ株式会社)
津村 宏 (アドバイザ)
 (東京医療保健大学医療保健学部医療情報学科)
吉原 博幸 (アドバイザ)
 (京都大学医学部附属病院/京都大学医学研究科/京都大学情報学研究科社会情報専攻)
協力病院 京都市立病院
京都大学医学部付属病院

過去のメンバ

  • 田淵 裕章
    (2008年度幹事.当時,関西学院大学理工学部情報科学科北村研究室に在籍)

連絡先

E-Mail  contactmailaddressmedical.langrid.org